ROOT DOUBLEもクリアからだいぶ時間がたったのでだいぶ忘れてるんですが、久々に小説版も見返してだいぶ思い出しました。
ROOT DOUBLEは聖書の引用から幕をあけます。
“They are gathered in the jail so that the captive is gathered, and confined by the prison. After a lot of days pass, they are punished.”
(The Old Testament / Isaia 24:22)
※ もちろん、ルートBから始めると違いますが。
以降、山のようにネタバレがあるのでご注意ください
まず、キャラクターに焦点を当てたいと思います。 ROOT DOUBLEではサブキャラクターである天川夏彦の母 天川美夜子以外は、 エニアグラムに基づき、立ち位置が割り当てられています。
名前 | エニアグラム | |
---|---|---|
1 | 笠鷺渡瀬 | 観察者 |
2 | 天川夏彦 | 情熱家 |
3 | 橘風見 | 忠実家 |
4 | 守部洵 | 挑戦者 |
5 | 椿山恵那 | 遂行者 |
6 | 琴乃悠里 | 調停者 |
7 | 鳥羽ましろ | 援助者 |
8 | 三宮・ルイーズ・優衣 | 芸術家 |
9 | 宇喜多佳司 | 批評家 |
10 | 天川美夜子 | |
11 | 橘凪沙 |
各キャラクターの冒頭時点での少なくとも、表向きの立ち位置と関係性を図示すると以下のようになります。
基本的にはルートアフター時点での状態としては、原子力生物学研究機構第6研究所で事故が発生し、 天川夏彦, 椿山恵那, 鳥羽ましろ, 三宮・ルイーズ・優衣, 宇喜多佳司が取り残されていて、 笠鷺渡瀬, 橘風見, 守部洵が救助に来たという関係性です。 従って、救助隊・要救助者という関係性に着目すると以下の通りです。
この物語において、話を複雑にしているのが、琴乃悠里と橘凪沙です。この二人は物語の序盤の時点では故人ということになっていますが、いずれも、原子力生物学研究機構第6研究所に監禁されています。そして、天川夏彦は自分のBC能力で自意識に琴乃悠里を投影しているので、琴乃悠里は立ち位置が目まぐるしく変わります。幼馴染→故人→幼馴染と。一方で、橘凪沙は同じく監禁されていますが、物語の序盤で死亡が確定します。しかし、物語を考える上では重要な登場人物です。
隠された関係性とそれぞれの思惑
物語が進むにつれて、キャラクターたちの間には、表向きの関係性とは異なる、複雑な繋がりや隠された思惑が存在することが明らかになっていきます。
椿山室長の経験した過去の事件
椿山恵那の父親は、かつて、鹿鳴市の超心研において、管理官をしていました。そのときに、監視したのがアリス・アンフラメでした。アリス・アンフラメは最終的にN化(Nobody化)現象と言う最終的な状態になってしまいます。自我が極めて脆弱になり、自分が誰なのかと言う認識を見失う現象とされています。そして、ネガティブな感情を濃縮した呪詛のようなテレパシーを無差別に継続的に発信してしまう。その結果、N化を起こしたコミュニケーターを外部から隔離するBC絶縁体などを完全にした施設が出来上がるが、最終的に研究所は暴走し、コミュニケーターを幽閉し、秘密裏に実験を行う非人道的な存在へとなり果ててしまった。椿山室長の抱いた希望は最悪の形で実現したと言っていい。椿山室長の遭遇した一件は最終的に、彼の部下だった黒田によって恵那に知らされることになります。
椿山恵那:潜入捜査官としての顔
鹿鳴市立鹿鳴学園の教師という表の顔を持つ椿山恵那は、文部科学省・超感覚科学技術局に所属する、BC能力関連事件を追う潜入捜査官です。彼女は、天川夏彦の特異な能力に着目し、研究所が何かを隠しているのではないかと疑念を抱いています。
彼女の行動原理には、過去の事件、特にアリス・アンフラメという初期のコミュニケーターと、彼女の父親である椿山室長の存在が深く関わっています。アリス・アンフラメは過去に大きな事件を引き起こし、その監視に当たっていた椿山室長は、アリスを庇って刺殺されてしまいます。父親の死をきっかけに、椿山恵那は超感覚科学技術局に入り、真相を究明しようとします。彼女の言葉にある「『Before Crime * After Days』ね」「あら知らない? ある社会学者が提唱した、社会の劇的遷移現象の事。何か重大な『罪』が暴かれた時は、その前と後では、世の価値観が激変する事が多いって」という台詞は、物語全体を貫く重要なテーマを示唆しています。
彼女は、9年前に発生した火災で死亡したことになっている琴乃悠里が生存している可能性があることを突き留めます。彼女は葬儀を行った業者を締め上げて、葬儀が実は茶番であり、火葬の際に猿の死骸と入れ替えられたことをつかみます。そして、研究所が不当にコミュニケーターを拉致・幽閉している可能性に結び付きました。
鳥羽ましろの過去と人間関係への影響
鳥羽ましろは、天川夏彦の幼馴染であり、彼の日常生活を支える献身的な存在です。 彼女の過去については、大きな事件に関わったという情報は提示されておらず、比較的平穏な日常を送ってきたと考えられます。彼女のそのような過去は、複雑な過去を持つ他のキャラクターたち、特に夏彦との関係において、彼女が常に彼の心の拠り所となり、安定した存在として機能する要因となっていると考えられます。ルートBにおいて、彼女が夏彦に対してまるで「通い妻」のような献身的な態度を示すことは、彼女が単なる幼馴染以上の深い愛情を彼に抱いていることを示唆しています。過去に特別な出来事を経験していない彼女の純粋でひたむきな愛情は、夏彦にとってかけがえのない心の支えとなっているでしょう。
琴乃悠里と鳥羽ましろの葛藤
琴乃悠里は、鳥羽ましろが天川夏彦に好意を抱いていることを知りながらも、自身もまた夏彦に特別な感情を抱いています。物語中では、悠里がましろの気持ちを慮り、夏彦から身を引こうとする場面が存在します。 しかし、ましろは悠里の申し出を拒否します。その理由として考えられるのは、悠里から「勝ち」を譲られることへの悲しみ、そして最初から夏彦との関係を築き直したいという強い思いです。 ましろにとって、悠里の優しさによる譲歩は、自身の気持ちや努力を否定されたように感じられたのかもしれません。彼女は、誰かに譲られたものではなく、自身の力で夏彦との関係を深めたいと願っているのでしょう。この葛藤は、三人の間に存在する複雑な感情と、それぞれのキャラクターの持つ強さや優しさを浮き彫りにする重要なシーンと言えるでしょう。
笠鷺渡瀬と宇喜多佳司:テロリストとしての側面
救助隊の一員である笠鷺渡瀬と宇喜多佳司は、「Q」と呼ばれる団体に所属しており、原子力生物学研究機構第6研究所に対して強い疑問と反感を抱く、いわばテロリストとしての側面を持っています。研究所が隠蔽している真実を暴き出すという強い使命感を持っており、救助活動もその目的を達成するための手段の一つと考えています。しかし、笠鷺渡瀬自身は、救助隊員としての責任感も持ち合わせており、その複雑な立場が彼の行動を特徴づけています。
三宮・ルイーズ・優衣とアリス・アンフラメ:血縁という繋がり
閉じ込められた要救助者の一人である三宮・ルイーズ・優衣は、初期のコミュニケーターであり、過去の事件に関わっているアリス・アンフラメの娘です。コミュニケーターとしての能力を持たなかったために、周囲からは特殊な存在として扱われてきました。彼女の失われた記憶は、事件の真相に迫る上で非常に重要な鍵となります。三宮・ルイーズ・優衣はコミュニケーターとしての能力を持たなかったため、全く無為に扱われるところでした、天川美夜子は橘凪沙の記憶のコピー実験のコピー先という立場を与えることで、彼女の立場を作ろうとしたわけです。しかし、コピー先とされることで彼女は記憶と人格に大きな問題を抱えてしまい、天川美夜子は三宮・ルイーズ・優衣の全ての記憶を消去することと引き換えに彼女を研究所から開放します。彼女の喪われた記憶は、終盤で彼女に戻ってくることとなり、また、Nobody化の危険を教えることになります。
天川美夜子と天川夏彦:親子の愛と研究者の苦悩
主人公である天川夏彦の母親、天川美夜子は、物語当初、夏彦との関係は良好とは言えません。彼女は研究者として多忙な日々を送っており、夏彦は母親から関心を寄せられていないと感じています。しかし、実際には、彼女は夏彦が生活に困らないようにクレジットカードを渡すなど、陰ながら彼を支えています。
かつて研究所に協力していたコミュニケーターの天川瞬は美夜子の夫であり、夏彦の父親でしたが、既に亡くなっています。作中の設定では、BC能力を持つコミュニケーターは、遺伝子変異の影響から、脳関連の疾患や悪性腫瘍を発症しやすく、平均寿命が短いとされています。天川美夜子の研究テーマは、実はコミュニケーターの延命であり、彼女は息子のために、コミュニケーターの宿命とも言える短命という運命に立ち向かおうとしていました。
研究を進めるという目的のため、美夜子は表面的には研究所に従順な態度を示していますが、実際には研究所を封鎖する隔壁を破壊するためのソフトウェアを密かに渡すなど、危険な橋を渡ってでも息子とその友人たちを守ろうとしていました。
エピローグにおける示唆的な会話
物語のエピローグで描かれる椿山恵那と天川美夜子の会話は、本作のテーマを深く掘り下げています。
天川美夜子:「とんでもない……やはり今回の一件は、どこまで行っても我々の責任、ひいては私の責任です。私は被験体たちを救おうと思いつつも、結局最後まで行動できなかったんですから」「……挙句の果てに……救えなかった子も……」
椿山恵那:「……凪沙さんの事ですか」
天川美夜子:「えぇ……あの子は私の担当ではありませんでしたが、それでもいつか悠里ちゃんや優衣と共に、外に出してあげたいと思っていたんです」
椿山恵那:「博士、お気持ちお察しします。しかし今は後悔している時ではありません。我々にはまだやるべき事が、たくさんあるのですから」
天川美夜子:「……そうですね。凪沙ちゃんたちの仇討ちを。そして今までに踏みにじられてきた、あらゆる人々の仇を取るために……」
この会話から、天川美夜子が単なる研究者ではなく、強い倫理観と正義感を持った人物であることが伺えます。彼女は、研究所の犠牲になった人々への贖罪と、未来への希望を託そうとしています。一方、椿山恵那も、過去の出来事に対する後悔を抱えながらも、前向きに未来を見据え、行動していく決意を新たにしています。